GLASSBACCA

グラスの沼

GLASSBACCA Journal vol.2

「GLASSBACCA Journal vol.2」は、グラスを軸にしながら、
涌き出る発想をさまざまな形で具現し続ける、米山揚人さんにインタビュー。

世界各国のガラス工場と強いネットワークを有し、
グラス製品の開発・輸入を行う「JTC株式会社」の新たな挑戦に迫ります。

米山 揚人
JTC株式会社


グラスをもっと自由に、もっと楽しく。
食卓に、そして世界の食シーンに
幸せをお届けするために
「GLASSBACCA」の挑戦は続きます。

プロフィール

JTC株式会社に入社後、ホテルやレストランなどの業務用グラスをはじめ、ライフスタイルショップや百貨店に並ぶグラス製品の開発に携わる。
近年は、日本酒や焼酎の輸出増加に伴い、世界中の人が楽しむことができる日本酒グラスや焼酎グラスの開発に携わる。また、自社ブランド「GLASSBACCA」の立ち上げに携わるなど、活動は多岐に渡る。

――米山さんが立ち上げに関わった「GLASSBACCA」について詳しく教えてください。

JTC株式会社の屋号が「GLASSBACCA」です。国内外のグラスメーカーとのネットワークを持つ、経験豊富なスタッフが、クライアントの希望やイメージをカタチにすべく、日々奔走しています。「グラスばっかり」と向かい、「グラス馬鹿」なスタッフが集結して「バッカナーレ:お祭り」の雰囲気でものづくりをするチーム。そのような意味合いを「GLASSBACCA」に込めました。

僕たちの商品開発は「グラスって何だろう?」というところから。
食卓はもちろん、レストランなどの食シーンには、人それぞれの美味しい記憶や楽しい思い出が詰まっています。なかでも、食器というのは毎日、向き合う大切なパートナー。しかもグラスは、見て、触って、嗅いで、味わい、乾杯の音も響かすことができる。つまり“五感”をフルに使って楽しむ唯一無二の道具です。このグラスの価値を上げることに重きを置いた開発こそ、人々の感性や感情に響くのだと思っています。

「GLASSBACCA」のコンセプトの一つに「カタチのないところから、自由な発想で」という考えがあります。
とある企業が、多数のグラスメーカーに掛け合っても実現ができなかった製品を、弊社で企画・開発させていただきました。思うに、様々な経験を積んでこられたグラス職人やメーカー側は「そんなデザインはできっこない」とそっぽを向くことも。だけど表層的なところで諦めてしまったら、それまで。長い目で見ると、グラス業界の衰退につながりかねません。
僕たちは常に、「作って欲しい人がいる。作ることができる人がいる」と思っていて。「GLASSBACCA」では、作り手(メーカー)にもクライアントにも丁寧に通訳をして、双方にメリットを感じていただけるような唯一無二のグラスの開発を、と日々取り組んでいます。

———素敵なコンセプトですね。その企画・開発のエピソードを具体的に教えていただきたいです。

あれは2020年のはじめでした。「日本が世界へ発信できるオリジナルのグラスを開発したい」と考え、日本酒の酒器を作ろうとしていた矢先、ひょんなことからフランス・シャンパーニュ界の重鎮・Philippe Jamesse(フィリップ・ジャメス)氏に出会います。驚くことに、フィリップ氏も「日本酒の個性ある香りを極限まで引き出すことができる器を、生み出したいと思っていた」と話すのです。その構想は10年も前からあったようなのですが、作ってもらえるメーカーがない…、と行き詰まっておられました。

フィリップ氏が掲げたデザインのコンセプトは、「球体(スフィア)」です。しかもギリギリの薄さに仕上げることで飲み口は滑らかに。口元の反りを施すことで、液体が舌の上にスムーズに運ばれるよう計算し尽くされたディティールです。しかし、技術面はとてつもなく職人泣かせでした。

フィリップ氏がメーカーを探しきれなかったのも無理はありません。まず技術的な問題をクリアできるメーカーが非常に少ないということ。またメーカーが不安に思うであろう部分を発注側が理解していないと、メーカーとしては受けるのが難しいアイテムでした。
我々が選んだのは、1社は業界屈指の技術を持つハンガリーのガラスメーカー、そして岐阜・美濃にあるクラフトマンシップに満ちた磁器の工房でした。
グラスも磁器も、開発の難しさは相当なもの…。薄さ、球体、しかも底面に施す凹みを実現するために、非常に高度な技術を要しました。「GLASSBACCA」が作り手側の苦労をしっかり理解した上で、フィリップ氏の熱意を丁寧に職人たちに伝え続けるからこそ、不可能が可能になったのです。

かくして【天頂・ガラス】【天頂・磁器】の2種が完成しました。この酒器では、日本酒をスワリングする、新しい飲み方を提案しています。
日本酒が持つ香りが球体の中でぐっと引き出され、手の温もりや空気に触れることで、味わいや香りの広がりを見つけることができるのです。
今では、ヨーロッパの星付きレストランなどでも高い評価をいただいており、現地の唎酒師に使っていただく機会も増えてきました。

この【天頂】の発売と並行して、私たち「GLASSBACCA」は、フィリップ氏とともに次のステップへ。“焼酎の概念をガラリと変える”本格焼酎専用グラス【Désir(デジール)】の共同開発に挑みます。

————焼酎の概念を変える【Désir(デジール)】とは?

フランスで行われる日本酒品評会、「Kura Master(クラ・マスター)」泡部門の責任者を務めておられるフィリップ氏。焼酎を初めて口にしたとき、その気品のある香りと味に大変驚かれたそうです。

世界各国に蒸留酒は数多く存在しますが、1回蒸留のお酒はメキシコの「メスカル」、ペルーの「ピスコ」、そして日本の「焼酎」この3つくらいだそう。1回蒸留のメリットとは、焼酎であれば麦や米、芋や黒糖など、原料由来の複雑味が存分に残ること。フィリップ氏曰く、「焼酎は、テロワールを感じる香り豊かな蒸留酒です。女性が楽しめる蒸留酒とも言えます。これほどエレガントな飲み物には、それにふさわしいグラスが必要なのです」。

そうして、コロンと丸いフォルム、脚が長いエレガントなデザイン、見た目にも美しく、女性ならひと目で気に入るデザインの焼酎専用グラス【Désir(デジール)】が誕生しました。

いち早く、目を付けていただいたのはフランス人シェフやソムリエなど、食のプロたちです。女性シェフ・アンヌソフィー・ピックさんが率いるフランスの三ツ星レストラン「PIC」グループや、パリ「オテル ドゥ クリヨン」のレストランで取り扱っていただくなど、海外での反響には驚きを隠せません。こうしてガストロノミーの世界のトップ・オブ・トップに知っていただくと、広がりは計り知れないものがあるのです。

グラス屋として、日本酒や焼酎の広がりに貢献できることはとても意義のあることだと思っています。

日本酒酒器【天頂】や、本格焼酎専用グラス【Désir(デジール)】といった、オリジナル商品の世界観をはじめ、弊社で取り扱いさせていただくグラス・ブランドを体感いただきたい。そのような思いもあり、私たちは新たなチャレンジへと。
大阪・天満に「GLASSBACCA HOUSE」を誕生させました。

—————「GLASSBACCA HOUSE」では、どのような活動を?

20021年1月、大阪ガラス発祥の地・天満エリアに「GLASSBACCA HOUSE」は誕生しました。陽光が差し込む地下のフロアでは、弊社が取り引きさせていただいている、国内外のグラスファクトリーの製品をラインナップ。

様々なグラスを見てイマジネーションを掻き立て、実際に使ってみて体感できる、「GLASSBACCA」をリアルに体感していただける場です。

最近の注目は、フランスの新進気鋭のワイングラス・ブランド【Sydonios(シドニオス)】の存在。2019年4月にフランス・ボルドー地方で行われたテイスティングイベントでは、ボルドー地方のメドック格付けシャトーの6割以上がテイスティンググラスに採用。その名を世界に轟かせました。

【シドニオス】が、ワインの表現力を最大限に高めることができた理由の一つ。それは、最先端のワイン研究で有名な、ボルドー大学との共同研究により導き出された「黄金比」を用いた形状です。また、重量は100gにも満たない軽さで、口に当たるリムの部分は、どこまでも薄く滑らかな触り心地です。グラスの存在を忘れ、ワインとじっくり向き合うことができるのです。ぜひ、「GLASSBACCA HOUSE」でその真意を、実感いただきたいです。

最近では、「オリジナルのグラスを作りたい」とお越しになる、レストランのシェフの姿も多いです。今、何が必要とされているかなど、ニーズもムーブメントも現場で起こっています。ですから、料理人やソムリエの皆さんの要望などもしっかりとヒアリングさせていただいた上で、オリジナルグラスの開発にも携わらせていただいております。

また、「GLASSBACCA HOUSE」では、飲食店経営者など食に関わりのある方達にお越しいただき、毎月21日に様々な勉強会「21の会」を実施。例えば、各種グラスにワインを注ぎ、味わいの広がりの違いを学ぶこともあれば、「日本酒とグラスのマリアージュ」と題し、タイプが異なる6種の日本酒を、形状が異なるグラスで飲み分けて、意見交換する会なども。近所にあるイタリアンレストラン「ポルポ」さんでは、料理とワインのペアリングも実施。そこでは、ハンドメイドのグラスと工場製品を使い分け、ワインの味わいの違いを学びました。今後も「21の会」は続きます。ご興味のある方はぜひご連絡いただきたいですね。

「GLASSBACCA HOUSE」には様々な業界の方が集まり、新しいワクワクが生まれる場になって欲しいと思っています。最近ではお茶専門の方々が集まり茶会を実施したり、ソルトコーディネーター×紅茶の勉強会など、「GLASSBACCA」が主催ではないイベントも行っています。何か勉強会や試飲会など開きたいとお考えの方はお気軽にご連絡頂ければと思います。

私たち「GLASSBACCA」は、グラス製品を取り扱うだけではなく、グラスが生活にもたらしてくれる「感性」や「時間」を提供したいと思っています。食を取り巻くあらゆる業界に伝播する、世の中の役に立つようなグラス製品を企画・開発し続けることが、「GLASSBACCA」の使命と考えています。