GLASSBACCA

グラスの沼

GLASS BACCA Journal vol.1

岡崎 孝俊
JTC株式会社
DIRECTOR


業界は小さいからこそ、世界は近い。
わたしたちのミッションとは、
ガラスの伝統技術を絶やさず、
新たな文化を発信し続けること。

プロフィール

大学卒業後、ジャパントレーディング株式会社(現・JTC株式会社)に入社。ガラス専門バイヤー・ ディレクターとして45年のキャリアを誇り、業界では「ガラス博士」として名を馳せる。

――岡崎さんのキャリアについて詳しくお聞かせください。

大学を卒業して、1977年に「ジャパントレーディング株式会社」に入りました。貿易商社であり、ガラス製品の輸出入はもちろん、当時は陶器や日用雑貨なども扱っていました。そして1985年、私が32歳のときに推し進めたのが、雑貨や陶器などの卸業の撤廃。そうして、クリスタルガラスを中心としたガラス製品に特化することになりました。

ガラス製品の市場は世界的に見てもマーケットが小さいんです。しかも、ガラスの主成分である、珪砂(砂)とソーダ灰、石灰石さえあれば、世界中どこだって作ることができる。つまり、世界各国に、グラスファクトリー(ガラス工場)は存在するのです。たとえ小さな市場であっても、そこに特化することで商売として成り立つという目論見は、当たりましたね。

2008年、ブランド洋食器専門店「ル・ノーブル」などを展開するノーブルトレーダース株式会社のグループ会社として「JTC株式会社」が誕生。ジャパントレーディング株式会社の全ての業務を移行し、現在に至ります。事業は多岐に渡りますよ。ガラス製品の輸入や卸売業はもちろん、プロモーション製品やOEM製品の開発や輸入、そして海外ガラスブランドの日本代理店業務も行っています。

――「ガラス博士」という異名も持つ、ガラス専門バイヤー・ディレクターの岡崎さん。
 日々、感じておられる「JTC株式会社(以下、JTC)」の商売と、その魅力とは?

世界各国のバイヤーや職人さんと密に繋がることができるのが楽しい。それがJTCで働くことの面白さの一つですね。

世界中のいいガラス職人に出会うために、訪れた国は64ヶ国。380もの地域に出向きました。私が目を付ける工場は、世界中から優れた目利きをもつバイヤーもやってくる。彼らと現場で交流をするうちに「アメリカではこんなワイングラスが売れている」など、国ごとのトレンドを情報交換することもできます。また、ドイツ・フランクフルトでは毎年、世界最大規模を誇る国際消費財見本市「アンビエンテ」が開かれます。もちろん私も出向くわけで、展示会場を歩いていると必ず、出店者から手を掴まれるんです。「おい、オカザキ、俺の店の前を素通りするな」ってね。(笑)

ガラス業界は世界規模でみてもマーケットが小さい。だからこそ、全く人種が違う方たちとも密でコミュニケーションができますし、新たなアイデアを互いに出し合うことも。僕が、ガラス職人さんにディレクションさせていただき、見本を作ってもらい、クライアントに気に入って頂けたらなら、そのガラス製品をヨーロッパで売ってもらうこともあるんですよ。

――その商品はどのような過程を経て、生み出されるのですか?

JTCは貿易商社ですから、在庫を一切持ちません。弊社の商売は、ガラス工場や職人さんと共に、製品を開発します。私は基本的にアナログ人間ですので、設計図をメールで送ったならば、電話でしっかりとディレクション。国内外問わず、毎日どこかの工場へ電話を入れていますよ。事細かなやりとりが数ヶ月は続きます。そうして納得のいくサンプルが完成したなら、メーカーや問屋さんなどにご提案。気に入っていただけたら商品化。お客様のもとで販売していただく流れです。

――ネットワークは国内外、ということですが、世界のガラス工場との関わりについて詳しく教えてください。

今、お取引のある世界中のグラスファクトリーは、10社に及びます。イタリア、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、フランスなどさまざまな国のグラス工場と提携。もちろん日本国内でも、数軒の工場とお付き合いがあります。国内外の熟練した加工技術を持つグラスファクトリーとの協業により、たとえ難度の高いオリジナルグラス加工や製造であっても、弊社で対応できると断言しますよ。

――岡崎さんはバイヤーでありながら、開発にも携わっておられるのですか?

私のようなバイヤーは稀かもしれませんね。随分前のエピソードになりますが…。あれは昭和から平成へと時代が変わりゆく頃。毎月のように出張でイタリア・ヴェネツィアへ。当時、日本のガラス館や百貨店で数多くのヴェネツィアン・グラスが取り扱われはじめ、日本だけのオリジナル製品も数多く作られました。そういった日本向けの製品の開発・バイイングを私が担当させて頂きました

あの頃、ヴェネツィアン・グラス界における20世紀最大のマエストロ(上級職人)たちと好意にさせていただいたのが、私の中のターニングポイントでしたね。彼らに、ガラスの組成から製造プロセス、成形、装飾技法などに至るまで、ガラスづくりの全てを教えていただいたことは大きい。技術面から原価計算に至るまで、奥深いところを知ることができました。彼らから学んだノウハウをベースとしながら、違う国のグラスファクトリーでレクチャーさせていただくことだってありますよ。

――バイヤーという業務の域をはるかに超えられていますね。

確かにそうです。おそらく、日本国内にあるグラスファクトリーの営業・バイヤー担当者は、まず、様々なグラスの作り方を知らない。一方で、ガラス製品づくりに勤しむ職人たちは、自社の知識は持っているけれど、他社のことは知らないと思います。

その点、我が社は貿易商社かつ、ファブレスファクトリー(工場を持たない企業)です。だからこそ、全世界のグラスファクトリーと繋がりを持つことができ、職人さんそれぞれが得意とするところを、適材適所で紡いでいくことができるのです。

このようなネットワークをもって、メーカー様向けのOEM製品から、レストランのオリジナル・ワイングラスに至るまで、提案させていただけるのは国内ですと「JTC」だけだと自負します。

――次世代、そして未来へ向けて。
ガラス市場における「JTC」の役割についてお聞かせください。

まさに今、新しいガラス産業への過渡期だと感じています。
国内を俯瞰しますとガラス製品(洋食器)を製造できる工場(従業員50名以上)は、全国に10軒も満たない。小さな工房は別ですよ。

1970年代、大阪には従業員100人レベルの工場が4軒ありましたが、もう今は廃業してしまったのです。海外でも同様の事態が起こっています。
安い製品を作るのであればオートメーションに勝てません。しかし裏を返せば、何百年と培われてきた伝統技術が消えゆくという、厳しい現状が待ち受けているのです。

ガラス製品って人間の生活に必需品ではないのですが、そこにあることでより、豊かな生活を送ることができます。直接、口に触れる洋食器はワイングラスなどガラス製品のみですから。これってすごくないですか。例えば安いコップでシャンパーニュを飲んでも、美味しさは半減します。スッとフォルムが美しい薄手のグラスで味わえば、感性が研ぎ澄まされるというもの。

そんな質の高い製品を、作り続ける工場を存続させたい。だからこそガラス製造に携わる工場や職人さんに、私たち「JTC」がアイデアを提案させていただき、唯一無二の製品を作り上げるのです。

昨年のヨーロッパ出張時、国内のガラス製造工場の若手の社長たちを、現地の工場にお連れしましたよ。日本とヨーロッパは技法が異なるけれど、自分たちの肌で感じないと分からないことは沢山ある。ウチの商売に直結しなくてもいいんです(笑)。なぜここまで熱意を持って取り組むのか…?業界が一丸となって努力をしなければいけない時代だからです。そうしないと、ガラス市場が右肩下がりになるのは目に見えていますから。

先人が培ってきた文化の伝承を軸に、新たな文化の発信を。それこそが、「JTC」の使命であると考えています。